代表世話人あいさつ

大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻 小林 忠男

 私は、30年以上にわたり、臨床検査とりわけ細胞診と深く関わってきました。この細胞診は、子宮頸がんの発見と診断に重要な役割を果たしました。また、今日の診断法はPapanicolaouの貢献が、極めて大であったと言えます。その後、国際細胞学会が設立され、細胞診は世界的な広まりを見せました。世界を牽引した米国は、医療政策の変革の波に幾度となくさらされ、特に細胞診結果への疑問を受け「検査結果の質」が問われることとなりました。その後、精度向上を目指す制度即ちCLIA88が制定され、液状化(LBC)を誕生させました。1983年、zur Hausenによる「子宮頸がんがHPV感染によって惹起される」ことの世界的な発見から、HPV-DNA検出法、HPVワクチン接種、さらにはHPV-DNA検査の初回スクリーニング法が新しい検診方法として推奨されるなど、矢継ぎ早に進歩を遂げました。HPVが子宮頸がん発症の最大要因であることが明確になり、頭頸部がんをはじめとする、非婦人科がんにおいてもHPVは研究用ツールから臨床検査(がん検診)のツールとして”pivotal role”を果たすことになるでしょう。日本以外では熾烈な開発競争と共に、パラダイムシフトが既に始まっています。今こそ、領域横断的な、がん検診のあり方を含めた研究開発を、戦略的かつ効率的に、推進する必要が日本でも強く望まれています。

自治医科大学附属さいたま医療センター 産婦人科 今野 良

 子宮頸がんの原因のほとんどがHPV感染であることは周知のこととなりました。1883年に子宮頸がんからクローニングされたHPV16に始まる癌化のメカニズム解明、HPVを用いる子宮頸がん検診、HPVワクチンによる子宮頸がんの予防と、子宮頸がんの基礎・臨床応用は大きく発展しました。また、最近は頭頸部がん(特に中咽頭がん)におけるHPVの関与が盛んに研究され、非常にアップデートなワクワクするような報告が相次いでいます。その他にも、肛門がん、他の泌尿生殖器がん、皮膚がんなど学問的興味は尽きません。しかし、まだまだ、私たちが研究し、その知識を広く啓発すべきことはたくさんあります。臨床・基礎・公衆衛生・社会医学など関連の多くの分野を領域横断的に学ぶことによって、この領域がさらに発展し、社会に貢献することを願っています。

永寿総合病院 耳鼻咽喉科・頭頸部腫瘍センター 藤井 正人

 頭頸部がんでは喉頭癌が多くを占めていましたが喫煙率の低下で減少傾向を示し、現在は咽頭癌の比率が高まっています。その中でも、中咽頭がんが世界的にも増加傾向を示しています。それはHPVの感染によって発がんする中咽頭がんが増加しているためと考えられます。HPVによって発がんする割合は、北米や北欧ではすでに中咽頭がんの70%に達しています。日本では「頭頸部癌基礎研究会」の調査研究で50%の中咽頭がんがHPV発がんに関連しているとの結果でした。多くの中咽頭がんがHPVによって発症することは、欧米での調査ではセクシャルパートナーからの性器・口腔感染と考えられています。そして、米国では性の多様性やマリファナなどとの関連も明らかになっています。多科との連合である本研究会でHPV感染症の共同研究を行うことによって、頭頸部がんの予防・診断・治療に新しい展開が生まれることを期待しています。

近畿大学医学部奈良病院 耳鼻咽喉科 家根 旦有

 平成26年1月21日に奈良県で産婦人科、耳鼻咽喉科、泌尿器科、小児科の先生方に集まっていただき、HPVに関する科を越えた横断的な研究会を開催することができました。その時に感じたことは、HPVに関してお互い他科のことはほとんど知らないということでした。HPVが子宮頸がんの原因であることは知っていても、頭頸部がんの原因になっていることはほとんどの先生は知りませんでした。そのような状況ですから、一般市民に至ってはHPVに関してほとんど知る余地がないのも当然かと思います。その時、特別講演の演者であった今野良先生と、将来このような横断的な研究会ができればと夢を語っておりましたが、今回それがようやく実現することができました。これをきっかけに多くの先生方がHPVに興味を持っていただき、HPVに関して多くの情報を発信できるような研究会になればと願っております。